文字画像 丸岡秀子と市川房枝

1981年2月11日に逝去した市川房枝の葬送の日、お別れの方々をお通しする前の静寂の中で、丸岡秀子は、「心の縁」のひとりであった故人と、沈黙の語らいを交わしていた。遺影を見つめる横顔は、敬慕と悲しみを浮かべながらも、二人の交わりがいかに純粋で、尊敬と信頼にもとづいていたかを表す、高潔な優しい表情であった。

「彼女の生まれ故郷は、愛知県の木曽川沿いにある。わたしの故郷は、信濃の千曲川沿いにある。」と丸岡は書いている。市川は「あなたの手も大きいが、わたしの手も太くて大きいでしょう。これはわたしたちの誇りだね。」と、共通の手を持つ二人が農家育ちであることを誇りにした。50年にわたって付合い、それぞれにひとすじの道を歩みつづけた二人の原点こそ、その生い立ちにあった。

回想録「市川房枝というひと」(新宿書房)の巻頭で、女性史的位置付けを書いた丸岡秀子の論文は、市川研究にとって必見の書である。

(解説 本尾  良)